震災と青森県知事選~東奥日報への寄稿文 | ワシントン通信 3.0~地方公務員から転身した国際公務員のblog

震災と青森県知事選~東奥日報への寄稿文

 6月5日に行われる青森県知事選挙は、震災後に東北地方で行われる初めての知事選挙です。その選挙に向けて、「震災と知事選」というテーマで寄稿をしてもらえないかと、ふるさと青森県の地方紙「東奥日報」から頼まれていました。その寄稿文が6月2日に掲載されましたので、掲載文とは別に、原文をここに載せておきたいと思います。字数や文体の関係で、掲載文とは多少ですが異なる部分があります。


危機を機会に変えて(東奥日報 6月2日掲載文原文)

 まずは3月11日の震災にてお亡くなりになられた方々のご冥福を祈り、被災した全ての方々へお見舞いを申し上げたいと思います。私はふるさと青森県八戸市を離れてから約17年、世界銀行という国連の専門機関にて主に途上国の国づくりや街づくりのお手伝いをしています。そういう経験から、震災後の青森県の進むべき方向について述べてみます。

 あらゆる危機には危険と機会がつきものです。例えば私が担当したインド洋大津波後のスリランカ復興は、被災地の大半が紛争地だったことから、紛争当事者同士が協力できる復興の枠組みを構築することにより和平に繋げられないか、というのが国際社会が模索した機会でした。結果としてスリランカはその千載一遇の機会を逃し、紛争の激化へと突き進みました。

 私は今回の東北地方を襲った未曾有の危機の中に、少なくとも二つの大きな機会を見出しています。ひとつは、言うまでもなくエネルギー政策の大転換です。復興に併せて、地域のエネルギーは可能な限りその地域で賄うという日本の新しいエネルギー供給のモデルを青森県が確立することはできないでしょうか。原子力や化石燃料への依存を段階的に減らし、再生可能エネルギーへの投資を増やす。それを地域の新たな雇用創出に結びつけるのです。私は水資源の乏しい途上国の地域などに、地下水、表流水、雨水(時には海水の淡水化や下水処理水も含む)などの最適な組み合わせで水需要を賄うようアドバイスすることがあります。それと同様に、東北は復興に併せて、太陽光や風力、地熱、バイオマスなどのエネルギーの最適な組み合わせを地域、地域で模索するべきではないかと思うのです。青森県がその先導役になってほしい

 もうひとつの機会は、復興に併せて災害や気候変動にいっそう強い地域をつくりあげること。地震や津波対策はもちろんですが、将来の気候変動を視野に入れた地域づくりを目指すべきです。世界ではここ数年、ハリケーンや大規模洪水など、気候変動によるものと思われる過去に例を見ないほどの気候型災害の多発と大規模化を経験しています。世界銀行では、そういった気候変動リスクを考慮した街づくりへの支援も世界中で進めています。これからは、港湾、河川、上下水道、交通、電力、学校や医療施設といった地域経済や生活に不可欠なインフラは、地震、津波、気候変動も含めたあらゆる自然災害や事故災害のリスクを考慮して立地や建築基準を決める必要があるのです。そのための長期的な土地利用や施設計画の見直し、施設整備なども復興と併せて行い、次世代のためにより安全な地域を残していかなければなりません。

 私が世界銀行から出向して働いていた豪州ブリスベン市のスーリー元市長は、よく「50年後のブリスベンでは全家庭にソーラー・パネルと雨水タンクが設置される」と仰っていました。東北の復興も、50年先を見越した計画作りから始める必要があります。上に示した二つの機会の他にも、別の重要な機会があるかもしれません。危機を機会に変えて、どのような地域づくりのビジョンを示せるのか、そのビジョンを実現するためにはどのような政策が必要なのか、その政策遂行の財源はどこに求めるのか、今回の知事選の候補者に求められているのはそこに尽きるような気がします。私は、我がふるさと東北は必ずや復興すると信じて疑いません。青森県には東北復興を牽引するエンジンになってほしい。震災後に求められる新たな地域づくり、その大事なスタートを任せるリーダーを選ぶのが、今回の知事選なのです。