釜石の奇跡と釜石の試練 | ワシントン通信 3.0~地方公務員から転身した国際公務員のblog

釜石の奇跡と釜石の試練


 先週末、震災で大被害を受けた釜石に行って来ました。釜石へは、大学時代に野球部の合宿で訪れて以来ですから、実に約25年ぶりでした。東北新幹線で福島から新花巻へ北上し、そこから東へ釜石線で約2時間かかります。

 釜石でまず訪れたのが、校庭に瓦礫が高く積まれた釜石の鵜住居小学校釜石東中学校(↑)。去年3月11日の発災時、釜石東中学校の生徒達は、隣接する鵜住居小学校の児童達の手を引いて一緒に高台へ逃げたそうです。一旦は近くの避難所に逃げ込んだけれど、そこも危ないかもしれないと思い、さらにもっと高い所へ高い所へと皆で避難したとのこと。釜石では「想定にとらわれず率先して避難せよ」という防災教育により、津波襲来時に学校にいた小中学生全員が助かったのです。これが、釜石の奇跡。この津波防災教育をきちんとした形で世界に発信するべきだと思っています。



 その後、津波で大被害を受けた住宅地や仮設住宅、新しくできた仮設商店街(↑)などを訪ね、ギネスブックに掲載されているという有名な湾口防波堤も見に行きました。下の写真で遠くに見えるのが、津波で大破した湾口防波堤の残骸です。破壊されながらも、津波の威力を弱め、避難の時間を稼いだとも言われています。ただ、巨額のコストに見合うベネフィットはあったのか、防災施策の他の選択肢との比較によるコスト効率はどうなのか等、大学など独立した機関による検証が必要だと思います。どこかやったんでしょうか?ご存知の方がいたら教えて下さい。


 釜石はご存じのように、新日鉄釜石工場が立地し企業城下町としての色合いが非常に濃かった街です。その新日鉄の業務縮小に伴う人口流出や地域経済の衰退は、震災以前から言われていました。そこに大震災が追い打ちをかけたという釜石の試練。釜石に限らず東北の復興に関して、住民の高台移転や防災機能の強化だけでは殆ど何も解決しないのではないか。若者定住を促す雇用創出、地域経済の多様化、高齢化対策、エネルギーと環境、新たな地域のガバナンス形成など、そういったトータルな復興をやらないと被災地は自立できないと思うのです。釜石を訪ねて、「東北の復興は本当に難しく息の長い仕事だ」とつくづく感じました。

追記: コストとベネフィットという話をすると、「経済価値で計れないものこそ大事だ」と言われることがあります。最近も、ある人に言われました。それは全くその通りで、人命の安全とか環境とか生活の安定とかといったものの方が、お金で換算できるものより大事なことは理解しています。僕が言う「ベネフィット」とは、そういった経済価値で換算できないものまで含めていますし、そういう経済価値を付加しづらいベネフィットを施策ごとに洗い出すことこそが重要なんだと思います。僕はエコノミストではありませんが、経済分析は環境アセスなどと同様、意思決定のためのひとつのツールに過ぎないでしょう。それを踏まえた上で、意思決定をするのが政治の役目です。結局は、「どういう情報に基づいてどういう意思決定がなされたのか」をできるだけ透明にしていく。あとは有権者が判断を下せばいいのですから。