除染をとりまく問題点を整理しておく | ワシントン通信 3.0~地方公務員から転身した国際公務員のblog

除染をとりまく問題点を整理しておく

 あの大震災以前にも除染なる言葉は存在したのだろうか?少なくとも僕自身は聞いたことがありませんでした。でも、いま福島にいると、この除染という言葉を見たり聞いたりしない日はありません。福島駅のそばには、除染を担当する環境省の新しい事務所がオープンしたようですし(↓)、先日乗ったタクシーの運転手さんも、「除染を請け負う業者が大量に福島に集まり始め、市内のホテルはどこも混んでいる」と言っていました。除染については僕もまだ勉強中でよく分からない部分が多いのですが、一応これまでに得た情報を基に問題点を整理しておこうと思います。他にも除染を巡る問題点があれば教えて下さい。


1. 除染技術と除染効果: 最初の疑問は、そもそも除染技術というものが確立されているのかどうかということ。そして、除染をやってどれほどの効果があるのかということ。高圧洗浄機で道路や建物を洗い流したところで、側溝から川へ海へと放射能が場所を変えるだけ。あるいは表土を剥ぎ取っても、それをどこに処分するかという問題が残ります。ただ、日常の生活空間における放射線量を下げるという意味においては一定の効果があるのでしょうね。福島市の2月の広報に、市内の18公園を除染した結果が出ていましたが、除染前と除染後で線量は最大で93%ほど低減し、ほとんどが70%以上の低減率ということでした。あと、地域における除染の進め方もまちまちなようです。例えば、線量の高い地区から除染を始めればいいのか。住宅地から除染を始めればいいのか。あるいは飯舘村などは、雨や風により放射性物質が高地から低地へと流れることが予想されるので、高地から除染を始めることを提案しています。どういう技術で、どういう方法と順番でやれば一番効果があるのかというのも、これから蓄積される経験次第といったところでしょうか。

2. 除染従事者の健康管理: 次に気になるのが、除染従事者の健康への影響です。特に福島で時々耳にするのが、町内会で除染活動をしたり、ボランティアによる除染をするというもの。こういった、いわゆる素人が除染をする場合に、きちんと防御服を着用させたり、長期的な健康管理やモニタリングができるのかというのは心配ですね。それに素人にやらせたら、除染の質だって下がるでしょう。そういうこともあるので、僕自身は誰にでも除染をやらせることには少なからず懐疑的です。

3. 住民の意向: 次は、そもそも除染を住民が望んでいるのかということ。これは意見が分かれるところでしょう。原発事故で避難している住民にしてみれば、できれば故郷に帰りたいというのは当然の感情です。農家にしたって、除染で放射能の影響が消えるなら、農地を除染して農業を再開したいでしょう。でも先日の報道では、避難生活を強いられている住民の8割が「除染は効果がない」と思っているようですし、「除染に膨大な金をかけるくらいなら、賠償額を増やせ」という声も度々聞きました。結局は、地域、地域できめ細かく住民の意見を聞き、除染対策に反映させていくしかないのでしょう。

4. コストと調達・発注方法: 福島県内の自治体は、どこも新年度予算が例年より大幅にアップ。その主な理由が除染のコストです。報道によると、南相馬市では除染コストが向こう2年間で400億円だそうです。こういった除染コストを誰が負担すべきなのか(本来は東電なのでしょうが)という問題と共に、どういう発注方法ならばコストを抑えて効果を最大限にできるのかということにも関心があります。競争を担保し、地元雇用を増やし、業者の技術開発を促すような発注方法が理想です。僕が考えていたのはアウトプット・ベースの契約です。「何ヘクタールの表土を削り、何戸の建物を洗い流して金額はいくら」という契約ではなく、「線量がいくら下がれば金額はいくら」というような契約。こういうの、どこかで試してみませんか。これだと、入札不調になりますかね。

5. 処分場の未確定: 最後になりますが、何と言っても一番の問題は、除染をした後の汚染土や汚染物質の処分場が決まっていないということではないでしょうか。一応、中間貯蔵施設は福島県双葉郡内に設置するという方向性が示されているようですが、最終処分場は候補地さえも未確定の状態です。中間貯蔵施設の位置選定だって容易には決まらないでしょうし、ましてや最終処分場を決めるのはもっと難しいでしょう。この問題を放置したままで除染を大規模に実施することは、少し危険じゃないかと思うのです。